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福岡事件の問題点

福岡事件確定有罪判決の構造

 福岡事件は他に「真犯人」がいるといった類のえん罪事件ではありません.石井さんは,被害者2人の殺人については一貫して認めています.

 しかしながら,当該事件のために死刑が執行された西さんは,事件現場にいませんでした.したがって問題は,石井さんの殺人行為が独立してなされたものなのか,それとも,西さんと石井さんの間で事前に「強盗殺人」の計画を話し合いがあり,それに基づいて殺人がなされたのかに収斂されます.つまり,刑法第60条の共謀共同正犯の構成要件たる,事前共謀の存在を立証できているのか,その立証に必要な有罪に足りる証拠が提示されているのかが問題となるのです.


 前述の通り,
2人を殺したのは,石井健治郎(当時30歳)さんでした.石井さんは,「中国人Bとぱったり出くわしたとき,Bがおもむろに拳銃を出すしぐさをしたため,殺されると思い,とっさに撃ってしまった.」と主張しました.2人を誤って殺したことを認めた石井さんでしたが,「強盗殺人」の事前共謀は否定したのです.

過酷な取り調べ

 1947年5月31日から6月2日までになされた,裁判官の訊問においては,全ての事件関係者が「強盗殺人」の「共謀」を否定しています.しかし,その前後に捜査官・検察官の聴取した調書では,西さんを首謀者にする「強盗殺人事件」として,一部ないし全部を自白する内容となっています.これら相反する供述のいずれが「真実」なのかが問題となるのです.

 事件当時,1947年5月20日は,日本国憲法が施行された直後でした.すなわち、拷問、強要、詐術など、自白獲得のためのあらゆる手段が禁止されたのです.しかし,石井さんや事件関係者の証言は,戦前の捜査体制が払拭されていなかったことを示しています.その証言は次の通りです.

 ~ひとり否認を続けた西さんは,逆さ吊りをさせられ頭を水に沈められた.その他の人々は,西さんが受けている拷問を見せら「西を首謀者にしないとお前らが死刑になる」と脅迫を受けた.また拷問を見せつけられたある一人は,正座した足の間に角材を挟まれ,上から踏みつけられる等の拷問を受けた.~

 そんな取調べが続いた結果…西さんを除く皆が,次々と「自白」に転じていったのです.
 調書は,捜査官の「作文」によって作成されていきました.



疑問だらけの有罪判決

 福岡事件において,共謀を裏付ける証拠は「自白」だけしかありません.しかもその「自白」は拷問・誘導などで無理強いされたもので,証拠として扱っていいものなのか疑わしいものであることは前述の通りです.さらに,福岡事件を管轄した第一審福岡地裁,確定審福岡高裁の判決も,列挙された数々の証拠が互いに不協和音を引き起こしており,有罪に足る証明も曖昧になったまま,数々の疑問点を残しています.ここではおおきく3点のみご紹介します.(ブックレット『冤罪・福岡事件』を参照しました.)

①強盗殺人の「共謀」について,有罪とするだけの証明がない.
 確定判決では,事件の3時間程前に西さんと石井さんが出会った旅館で「強盗殺人の共謀」がなされたとしています.この「共謀」の有無こそ福岡事件の重要な争点です.その内容について確定判決は「事の成行によっては,まず共犯者の1人が取引の相手方2人を誘い出し,次いで,被告人西が残りの者を連れ出し,逐次相手を殺害して,その所持の金員を奪取すべく,計画の実行に関する大略の構想を表明」と認定しており,これ以上具体的な謀議内容は認定されていません.杜撰な計画とはいえ強盗殺人,しかも殺害実行は「計画」の肝となる役割です.この大役を事件の直前になって,西さんが初対面の石井さんに持ちかけた理由は不明なままです.また,石井さんにとっても,見ず知らずの相手から急に「強盗殺人計画」を持ちかけられて,その実行を引き受けるのでしょうか.確定判決では5万円の支払い約束が認定されていますが,それが拳銃代金なのか殺賃なのか,なお曖昧なままです.

②「強盗殺人」にもかかわらず,被害者2人の所持していた金品は奪われていない.
 確定判決によると,金員奪取を目的とする強盗殺人の「事前共謀」があったとされています.しかし,遺体の内ポケットにあった多額の現金(約5000円当時の国会議員の月給3500円)や金側懐中時計などの金品は盗まれずに残されていました.容易に取ろうと思えば,取れたにもかかわらずです.仮に,強盗殺人を事前に共謀して周到に犯行に移したならば,当然金品が目的ですから,これらの金銭を盗むはずではないでしょうか.

③殺害後の行動と事前共謀との矛盾
 殺害行為後の被告人の行動も,「強盗殺人の事前共謀」があったとすると,説明できないものです.
 西さんは,被害者から事前にもらっていた軍服取引の手付金10万円を所持して逃走しています.この10万円の所持こそが「強盗」に該当するとされているのです.しかし,確定判決によれば,この10万円の強取が西さんの目的ではありません.「逐次相手を殺害して,その所持の金員を奪取すべく」という共謀内容の通り,軍服取引関係者全員殺害による軍服代金60万円の強取こそ目的だったはずです.しかし,西さんは2人の殺害後,60万円の交付を取引相手に強要しただけで,取引相手が強要を拒絶したとたん,「計画」の遂行を諦めて逃走してしまいます.なぜ,西さんが全員殺害を諦めてしまったのか,確定判決は何も認定していません.
 また確定有罪判決によれば,西さんと石井さんは「逃走」の最中に合流したとされています.しかしながら,石井さんにも,他の被告人らにも,西さんは一切謝礼を支払っていません.軍服取引の手付金は,ずっと西さんの手元にあったとされているのです.事前に共謀して「強盗殺人」を実行したのならば,西さんが持ち帰った現金をみんなで山分けすることが自然ですが,そのような事実はないのです.